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大阪高等裁判所 昭和51年(う)731号 判決 1978年5月12日

控訴人 原審弁護人・検察官

被告人 東海商事株式会社 外二名

弁護人 上田誠吉 外三名

検察官 瀧本勝(辻本俊彦 石井寛)

主文

原判決を破棄する。

被告人東海商事株式会社を罰金三〇〇万円に被告人朴福根、同朴正浩を各懲役六月にそれぞれ処する。

被告人朴福根、同朴正浩に対しこの裁判確定の日から一年間それぞれその刑の執行を猶予する。

被告人東海商事株式会社および同朴福根から金八、八八六万一、八八六円を、被告人東海商事株式会社および同朴正浩から金六、七二五万二、〇三一円をそれぞれ追徴する。

原審における訴訟費用中、証人田中猛、同李徳夫に各支給した分は被告人東海商事株式会社および同朴福根の、証人西岡謙司、同鎌田務に各支給した分は被告人東海商事株式会社および同朴正浩のそれぞれ連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人上田誠吉、同橋本敦、同山田一夫、同細見茂連名の控訴趣意書および同補充書、大阪高等検察庁検察官検事杉島貞次郎が提出した大阪地方検察庁検察官検事稲田克巳作成の控訴趣意書各記載のとおりであり、弁護人の控訴趣意に対する答弁は、検察官検事辻本俊彦作成の答弁書、検察官の控訴趣意に対する答弁は、右弁護人四名連名の答弁書各記載のとおりであるから、これらを引用する。

弁護人の控訴趣意第一(公訴棄却の主張)について

論旨は、要するに(1)関税法所定の犯則事件は同法一三八条一項本文の通告処分を原則とするところ、同項但書一号はその例外的事由として「情状が懲役の刑に処すべきものであるとき」と定めているものの、その要件自体が不明確な内容となつているうえ、事後の手続過程で検察官または裁判所が罰金刑相当と判断した場合においても、当該犯則者は刑事被告人という不利益な立場を強制されて刑罰を科せられることとなり、その事件処理につき不当・不合理な結果をまねくこととなる。右のような例外規定は「法律の適正な手続」を欠如して憲法三一条に違反するから、同規定に基づく税関長の本件告発手続は無効である。(2) また、右告発手続は「情状が懲役の刑に処すべき場合」に該らない本件事案につき不当に告発権限を濫用してなされたものであつて無効なものである。いずれにしても、本件各公訴は訴訟条件を欠如し不適法であるから棄却を免れないというのである。

そこで、考えるに、関税法所定の犯則事件につき同法一三八条一項但書により税関長に直告発の権限を付与し、その告発を訴訟条件とした趣旨・目的は、すでに通告処分を履行した犯則者に対し重ねて公訴を提起して刑事上の制裁を科することがないようにするためであり、右但書一号の「懲役刑相当」の要件を審査するについて所論のように具体的基準が明規されていないからといつて特にその解釈・運用に支障があるものとは解しがたく、税関長のなした「懲役刑相当」の判断は、その後の事件処理にあたる検察官および裁判所を拘束するものではなく、前記告発を訴訟条件とする刑事訴訟手続は司法官憲の独自の権限に基づき進められ、その告発の効力を含めてすべてが厳正な司法審査の対象となるものであり、所論のように税関長の判断が裁判に不当な影響を与える虞れはなく、また仮に、司法審査を経由した裁判所が罰金刑相当の終局的判断を示した場合においても、各告発が遡つて不適法となるものではない(昭和三四年五月八日最高裁判所第二小法廷判決・集一三巻五号六五七頁参照)。従つて、本件告発手続についての前記例外規定が憲法三一条の適正手続の保障に違背するものとは到底考えられないから、(1) の論旨は理由がない。さらに、記録を調査し前記告発手続の当否につき按ずるに、本件は原判示の各輸入貨物につき保護貿易主義の一環として課税価格の上昇に伴い関税率が低くなる恩恵が与えられていたことを奇貨として虚偽の高額運賃を計上して課税価格(輸入貨物の価格、運賃、保険料を合算したCIF価格)を過大申告した脱税事犯であり、その犯則の手口・態様は巧妙かつ計画的なものでありその逋脱関税額も決して少ないものといえないのみならず、犯行後被告人らにおいて帳簿の操作などによる罪証隠滅工作に及んだことなど諸般の情状に鑑み、税関長が懲役刑に処すべきものと認めたことをもつて不当とは断じがたく、その他原審公判審理の経過・内容に徴しても所論のように本件告発手続が権限を濫用してなされたものとは到底認められないから、(2) の論旨もまた理由がない。

弁護人の控訴趣意第二(事実誤認の主張その一)について

論旨は、要するに、被告人らの無罪を主張し、原判決は、被告人朴福根について原判決末尾添付の別表(以下単に別表という)(一)記載のIの各輸入に関し、被告人朴正浩について別表(二)記載のIの各輸入に関しそれぞれ被告人東海商事株式会社(以下単に被告会社という)の業務として「詐偽の行為により」関税を逋脱した所為を認定しているが、被告人朴福根が関与したとされる別表(一)の「詐偽の行為」は李徳夫が、被告人朴正浩が関与したとされる別表(二)の「詐偽の行為」は朴燦圭がそれぞれ被告人ら不知の間に単独で行つたものであり、被告人両名は単にその事後処理の実務を情を知らないで担当したに過ぎず、右のような「詐偽の行為」には現実に関与していない。しかるに、これに関与したとして被告人らを有罪とした原判決には事実の誤認があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないというのである。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠(但し、原判示「証拠の標目」一二行目の第八ないし第九回各公判調書中の証人田中猛の供述部分とあるのは、第九、第一〇回各公判調書中の証人田中猛の供述部分の、同五九行目のかつこ内の前同号の26とあるのは、前同号の25のそれぞれ誤記と認めるから訂正する)を総合すると、被告会社は、貿易業を営み、原判示各犯行当時、本店事務所を東京都千代田区内幸町二丁目三番地に、大阪支店の事務所を大阪市東区平野町三丁目一五番地にそれぞれ置いていたものであるが、被告人朴福根は右本店の従業員として、被告人朴正浩は右大阪支店従業員として各輸入業務を担当していたところ、いずれも被告会社の業務について、原判示の輸入貨物(鉛インゴツトおよびその含有量が全重量の九八パーセントをこえる亜鉛インゴツト)の課税価格(CIF価格)を虚偽の運賃を加算することにより過大に申告して現実の課税価格との差額関税を免れようと企図し、被告人朴福根は、原判示別表(一)の番号1ないし5のとおり、北朝鮮からの同表掲記の各輸入貨物につき実運賃は拓洋船舶株式会社との間でいずれも一ロングトン当り五ドルの約定であつたのに、同社をして同番号1ないし3については一ロングトン当り一五ドル、同番号4および5について一ロングトン当り一三ドルである旨虚偽の運賃請求書を作成させたうえ、原判示第一の各輸入申告に際し情を知らない税関貨物取扱人(係員)を通じて虚偽の右運賃請求書を他の関係書類と共に提出して課税価格を過大に申告し、詐偽の行為により差額関税(後掲通常運賃((別表番号1ないし3については一メトリツクトン当り九・八〇ドル、同番号4および5については一メトリツクトン当り八・八〇ドル))により計算した課税価格による関税額との差額)を免れたこと、また、被告人朴正浩は、原判示別表(二)の番号1ないし6のとおり北朝鮮からの同表掲記の各輸入貨物につき実運賃は正和海運株式会社との間ではいずれも一メトリツクトン当り六ドル五〇セントの約定であつたのに一ロングトン当り一三ドルである旨虚偽の運賃請求書を作成させたうえ、原判示第二の各輸入申告に際し情を知らない税関貨物取扱人(係員)を通じて虚偽の右運賃請求書を他の関係書類と共に提出して課税価格を過大に申告し、詐偽の行為により差額関税(後掲通常運賃一メトリツクトン当り八・八〇ドルにより計算した課税価格による関税額との差額)を免れたことがそれぞれ認められる。なるほど原審第九、一〇回各公判調書中、証人田中猛の供述部分によると、原判示第一の各犯行前に、拓洋舶船株式会社の取締役である右田中猛と別表(一)の各輸入貨物についての実運賃と虚偽の申告運賃の金額や後日返金による過払運賃の決済方法を取決めるなどの事前の準備交渉をしたのは、当時本店一課(輸入課)の課長であつた李徳夫であることが認められるけれども、前掲各証拠、特に、原審証人田中猛の前掲各供述部分、原審第三四回公判調書中の証人李徳夫の供述部分によると、被告人朴福根はその当時右李徳夫の部下として本店一課に所属し、同人と共に同室内で輸入事務に従事し、同人と右田中猛との本件運賃についての交渉経過および内容を同じ部屋で執務し居合わせて直接あるいは間接に聞知し、本件二重運賃契約の存在およびその差額運賃の決済方法などを十分に知悉していたのみならず、右李徳夫が退職した昭和四一年一月一七、八日ころ以降、本件各輸入申告手続に関する職務を引き継いで自らこれに直接関与するとともに右田中猛に対し従来の虚偽の申告運賃額一ロングトン当り一五ドルを、大阪税関分については一ロングトン当り一三ドルに改訂されたい旨申し込んでこれを取決めたり、虚偽の申告運賃と実運賃との差額金につき払戻請求をしてこれを受領するなど本件各輸入に関する全般の事務を担当したことがそれぞれ認められ、これらの事実関係に徴すると、被告人朴福根は、被告会社の業務について前掲各犯行に及んだものであり、原判示第一(別表一)の輸入貨物の関税を逋脱した罪責を免れがたいものといわねばならない。さらに、原判決の挙示する原判示第二の各事実の関係各証拠、特に原審第一一、一二回各公判調書中の証人西岡謙司の供述部分、同第一六、二一回各公判調書中の証人鎌田務の供述部分、同第三三回公判調書中の証人朴燦圭の供述部分を総合すると、被告人朴正浩は、被告会社大阪支店における輸入担当の上司である朴燦圭の病気休暇によりその事務を引き継ぎ、本件各輸入申告前である昭和四一年一月下旬ころ正和海運株式会社大阪駐在員の西岡謙司に対し、北朝鮮からの各輸入貨物(前記鉛、亜鉛の各インゴツト)を興南港から大阪港まで運送して貰いたい旨依頼し、自ら直接運賃交渉を重ねた結果、一メトリツクトン当り六ドル五〇セントで妥結し、当該実運賃の請求書のほか、これを上廻る一ロングトン当り一三ドルの運賃請求書を二重に作成させ、これを利用し、被告会社の業務として原判示第二の各犯行に及んだものであることが認められ、この点に関し同被告人もまた罪責を免れがたいものといわねばならない。以上の各認定事実を左右するに足る的確な証拠は見当らないから、所論指摘の諸点につき、原判決には事実の誤認はない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第三(事実誤認その二および法令の解釈・適用の誤りの各主張)について

論旨は、要するに、原判示第一の各所為は、前記李徳夫が被告会社を陥れるために行つた疑いが濃厚であり、会社の業務として従業員が行つたものではない。よつて、被告会社の罪責を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認および法令の解釈・適用の誤りがあるというのである。

しかしながら、原判示第一の各犯行の行為主体は所論のように李徳夫ではなく、被告人朴福根であることおよび同人が被告会社の業務として右各犯行に及んだものであることは前認定のとおりであるから、李徳夫が行為者であるとの前提にたつ所論は採用するに由がなく、原判決挙示の関係各証拠を総合検討してみても殆んど時期を同じくし、相前後して被告会社の本店のみならず大阪支店において同一手口により反復累行された本件各逋脱事犯が、当該犯行に至る経過・態様および内容に照らしても、李徳夫により所論のように単独で仕組まれ、他の従業員は全く情を知らずに機械的に利用されたに過ぎないものとは到底認めがたいから、論旨もまた理由がない。

弁護人の控訴趣意第四(事実誤認その三および法令の解釈・適用の誤りの各主張)について

論旨は、要するに、原判決が認定した別表(一)および(二)のIII 掲記の課税価格は、これを構成する「通常卸売価格」および「通常運賃」を過少に評価し算出した不当なものであり、この点についての事実誤認は、昭和四二年法律第一一号関税定率法等一部を改正する法律附則八条による改正前の関税定率法(以下単に改正前の関税定率法という)四条一項ないし三項の解釈・適用を誤つたことに基因するというのである。

よつて、記録を調査して検討するのに、原判決挙示の関係各証拠および当審証人高野洋四郎同白石明の各供述を総合すると、原判決が「弁護人の主張に対する判断」の二の1ないし3において詳細な説示を加え、「通常卸売価格」を改正前の関税定率法四条二項による本件各仕入書記載の価格(FOB((輸入港における本船甲板渡し))価格)とし、「通常運賃」を同法四条三項によりその輸入実績に基づき決定した運賃単価(大阪港着のものは一メトリツクトン当り八・八〇ドル、川崎港着のものは同九・八〇ドル)とし所定の保険料を加算して課税価格を算出した認定は相当でありこれを是認することができる。すなわち、(1) 通常卸売価格について、なるほど改正前の関税定率法四条一項には「当該貨物の輸出の際にその輸出国において当該貨物又は同種の貨物が通常の卸取引の量および方法によつて販売される価格」と規定され、その課税価格を構成する輸入貨物の価格はその輸出国における卸取引価格を基準として定められるものと解されるところ、北朝鮮の経済構造や卸取引の実情は明らかでなく、これを正確に把握することは甚だ困難であり、本件各仕入書記載のFOB価格が北朝鮮で適正に形成された卸取引価格であるかどうかについての明確な基準・照合資料に乏しいことはこれを否定しがたいけれども、このことから直ちに、改正前の関税定率法四条二項所定の仕入書などに記載されたFOB価格により課税価格を計算できない事由があるものと断定するのは相当でなく、右FOB価格が輸出国である北朝鮮における卸取引価格に相当するものであるかどうかは、同価格が決定された具体的経過・内容を勘案して判断すべきものと解され、原判示認定のFOB価格が同判示のように本件各貨物の売手と買手との間における自主的かつ自由な輸出入の商談により決定された卸値であり、その価格形成に際し、特別ないし異常な事情が介在していた形跡がなかつたことなどの諸事情を考慮すると、本件各輸入取引による価格は通常卸売価格の一例を示すものと評価することが十分に可能であり、本件各貨物の通常卸売価格を同法四条二項に基づき本件各仕入書記載の前記FOB価格により決定した原認定は正当である。(2) 通常運賃について、本件各貨物の輸入申告に際し仕入書などの書類とともに提出された運賃計算書記載の運賃額(別表(一)および(二)の各IIに掲げる運賃単価)は実運賃を大幅に上廻る虚偽のものであることは前認定のとおりであり、同法四条二項所定の仕入書その他の書類により通常の運賃額を計算できない場合に該るから、同法四条三項所定の方法すなわち最近の輸入実績に依拠して通常運賃を決定するほかはない。しかして右最近の輸入実績とは、特段の事情のない限り本件貨物の各輸入申告時に最も近い日に輸入港に到着した同種又は類似の貨物の輸入実績を指称するものと解されるところ、原判決がその挙示する関係各証拠により別表(三)の一五例を認定しそのうち、輸入実績と評価するのを相当と認めた電気鉛関係の別表(三)番号1ないし3、7、8の五例および電気亜鉛関係の同表番号1、2、4、6の四例は、いずれも本件貨物の各輸入申告時を基準とすれば、必ずしも右条項所定の最も近い取引例のみを列挙したものではないけれども、いずれも右各申告時に比較的近接した時期に輸入港に到着した同種または類似の貨物についての輸入例として最近の輸入実績に準ずるものであるうえ、わが国と北朝鮮間の政治関係が不安定なため両国間における貿易の頻度も極度に少く、両地域間の運賃表(タリフ)も存在しないところから最近の輸入実績による運賃額が妥当なものかどうかを決定する照合資料に乏しいという特殊な各事情を考慮すれば、前記九例の輸入実績中、約四四パーセントを占め、しかもその取引のいずれもが比較的最近の事例である電気亜鉛関係の四例(番号1、2、4、6)に共通する運賃単価一メトリツクトン当り八・八〇ドルをおおむね最近における安定した輸入実績とみることもあながち不合理なものとは断じがたく、これらの輸入実績を基礎とし、そのうち川崎港着のものについて原判示のように一ドル増の調整を加え原審における弁護人の主張の一部を認容し、前掲二種の通常運賃を決めた原認定はいずれも正当である。(検察官は、当審において原判示の通常運賃額を争つていないじ 所論は、もともと通常運賃は、独立・対等の取引主体が様々な条件のもとで自由な競争過程を経て形成される取引価格であり、これらが平均化されて通常のものとみなされうる程度に標準化されるためには原判示の三ケ月は余りにも短か過ぎてその時期の特有な条件による偶然性を排除できないから、通常最低一ケ年の期間内における取引例を参考とすべきであり、原判決の三ケ月という期間設定はきわめて恣意的で合理的根拠に乏しい旨主張するけれども、前記北朝鮮貿易における特殊な事情および所論の見解を考慮に容れて検討しても、一ケ年もの長期にわたる輸入実績を対象としてその平均運賃単価により通常運賃を算出する方法は、改正前の関税定率法四条三項所定の最近の輸入実績からは著しくかけ離れ、できる限り最近の事例に限定して適正妥当な運賃を決定しようとする右条項の趣旨、目的に照らし当を得ないものと解されるから、右の論旨もまた理由がない。

ところで、原判決が認定した別表(一)および(二)掲記の逋脱関税額およびその算定の基礎となつた各項目・計数関係に過誤がないかどうかにつき検討するのに、原判決挙示の各証拠、特に、原審第一三回ないし第一五回および第一九回各公判調書中の証人高野洋四郎の供述部分、大阪税関長窪田譲作成の「東海商事株式会社に係る関税法違反事件に関する鑑定書ならびに鑑定証言の基礎資料について」と題する書面、押収してある輸入申告書綴(大阪高裁五一年二九八号の一九ないし二六、二八ないし三一号)によると、別表(一)の番号3のIIの「保険料」一、二五九、三五〇円とあるのは、一、二五九、三五八円の、別表(二)番号4のIIの「保険料」二三五、一〇七円とあるのは、二三五、〇〇七円の、同表(二)番号6のIIの「価格」二二六二六・八九九ポンドとあるのは、二二六二六ポンド-一七シリング一一ペンスのそれぞれ誤記と認められ、さらに前掲各証拠によると、別表(二)の番号1および3掲記の貨物である亜鉛インゴツトは同一機会に一括して輸入したものを二回に分割して申告したものと認められるところ、その申告数量は番号1が八〇ロングトン、番号3が二〇ロングトンと分割申告されているが、その現実の検査数量は番号1が七九、六〇四・八キログラム、番号3が二一、六七一キログラムであることが判明し右現実検査数量に応じて正確に価格、運賃、保険料が按分計算されるのが相当であり、現に本件輸入申告に際し、右に添い関税額が修正され、同関税が納付されていることは押収してある輸入申告書二綴(大阪高裁五一年二九八号の22および24)によつて明らかであり、これらの点を考慮しないで、不正確に表示された前掲申告数量により逋脱関税額およびこれが算定に至るまでの計数を別表(二)の番号1および3で示した原判決には事実認定上の過誤があるから、別表(二)番号1のIIの「価格」八、三八六、五六〇円とあるのは八、二四〇、〇〇四円に、「運賃」三七四、四〇〇円とあるのは三六七、八五七円に、「保険料」一九二、八七二円とあるのは一八九、五二〇円に、「CIF価格」八、九五三、八三二円とあるのは八、七九七、三八一円に、III の「運賃価格」二五七、四九五円とあるのは二五二、九九五円に、「保険料」一九四、四四七円とあるのは一九一、〇四九円に、「課税価格」八、八三八、五〇二円とあるのは八、六八四、〇四八円に、IVの「IIによる単価」一一二・四七八五四円とあるのは一一〇・五一三一九円に、「III による単価」一一一・〇二九七六円とあるのは一〇九・〇八九五〇円に、「IIによる関税額」〇とあるのは五九、一七〇円に、「III による関税額」三八、六一七円とあるのは一一五、八四〇円に、「逋脱関税額」三八、六一七円とあるのは五六、六七〇円にそれぞれ修正し、別表(二)番号3のIIの「価格」二、〇九六、六四〇円とあるのは二、二四三、一九六円に、「運賃」九三、六〇〇円とあるのは一〇〇、一四三円に、「保険料」四八、二四一円とあるのは五一、五九三円に、「CIF価格」二、二三八、四八一円とあるのは二、三九四、九三二円に、III の「運賃価格」六四、三七三円とあるのは六八、八七三円に、保険料四八、六一一円とあるのは五二、〇〇九円に、「課税価格」二、二〇九、六二四円とあるのは二、三六四、〇七八円に、IVの「IIによる単価」一〇三・二九三八四円とあるのは一一〇・五一三二二円に、「III による単価」一〇一・九六二二五円とあるのは一〇九・〇八九四七円、「IIによる関税額」九四、三三五円とあるのは一六、一一〇円に、「III による関税額」一〇八、七六四円とあるのは三一、五三〇円に、「逋脱関税額」一四、四二九円とあるのは一五、四二〇円とそれぞれ修正すべきものであり、そのほか、原判示認定の「IIによる関税額」「III による関税額」「逋脱関税額」の各金額については、いずれも国税通則法九一条一項(昭和四二年法律第一四号附則二条二項による改正前のもの)により右各関税の確定金額につき一〇円未満の端数をすべて切り捨てるべきものであるから、別表(一)の番号1ないし5、別表(二)の番号1ないし6の各確定金額部分の一〇円未満の端数をすべて切り捨て、その各金額を別紙修正別表(一)および(二)のとおり訂正すべきものと認める。以上に掲げたように原判決には事実の誤認が存するけれども、いずれも結果的にみて逋脱関税額の誤差はさほど多いものとは認めがたいから、未だ判決に影響を及ぼすものとはいえず、後記自判の際に右修正別表(一)および(二)のように是正するにとどめる。

検察官の控訴趣意について

論旨は、要するに、原判決は、「超法規的刑罰阻却事由」という独自の見解に基づき、前記昭和四二年法律第一一号の附則八条による改正前の関税法(以下単に改正前の関税法という)一一八条二項の規定を適用しないで被告人らから本件犯罪貨物の「犯罪が行われた時の価格に相当する金額」(被告会社および被告人朴福根から金八八、八六一、八八六円、被告会社および被告人朴正浩から金六七、二五二、〇三一円)を追徴していないが、改正前の関税法一一八条は、その一項本文において同法一一〇条の犯罪に係る貨物等についての必要的没収を、その二項において没収すべき犯罪貨物等を没収することができない場合における必要的追徴をそれぞれ定めているところ、本件ではまさに被告人朴福根、同朴正浩の両名においてそれぞれ被告会社の業務に関し右一一〇条の罪を犯し、かつその犯罪に係る貨物が処分されたためこれを没収することができない場合に該当し、被告人らから右条項に基づき前掲各金額を追徴すべき場合に該ることが明白であるから、これが追徴を言渡さなかつた原判決は同条項の解釈・適用を誤つたものとして破棄を免れないというのである。

そこで、所論にかんがみ記録に徴して検討するのに、原判決は必要的追徴を定めた改正前の関税法一一八条二項の適用を排除した理由として、先ず「関税法の(必要的)追徴の規定を具体的事案に適用した結果、それが法の基本理念とする正義と衡平の理念に背馳し右理念の下に法を適用する裁判所として到底黙過しがたい事態が生ずるときは、法の明文の規定がないとはいえ、右追徴の処分の根拠が否定されるものとして(いわば超法規的((広義の))刑罰阻却事由があるものとして)その具体的事案に同法条を適用して追徴の処分をすることができない」との法解釈を示したうえ、「これを本件についてみるに、右関税法の追徴の規定を本件に適用した場合に、その追徴額が本件各逋脱事犯の規模((その主要な徴表である逋脱税額))と対比し、極めて多額であることは、すでにみたところであるが、かかる内容を持つ追徴の本件における実質的根拠の検討として、まず本件各犯行の態様をみるに、右犯行が不正運賃請求書を使用してなした単純な差額関税の逋脱にかかるものであり、したがつてまた前判示の通常運賃決定方法に徴し税関当局が右不正を探知することが極めて容易なものであつたうえに、全体としての逋脱税率も必ずしも高くない((被告人朴福根関係では三四パーセント、同朴正浩関係では三八パーセントである))のである。次に右関税法の保護法益の具体的侵害の程度をみるに本件関税逋脱貨物の国内市場に対する影響としては、本件各事案において関税を免れることによつて本件各貨物の受けた利益が一キログラム当り二〇銭ないし九二銭で、その課税価格の一キログラム当り単価の一パーセントに達しないものであることが計数上明らかであるうえに、当時すでに右貨物は外国貿易上いわゆる自由化品目に属していたものであるから、右関税逋脱額の本件貨物の価格への反映度が薄いことと相まち、本件各貨物がその関税逋脱のゆえをもつて国内市場にもたらした悪影響は、存在したとしても極くわずかなものであつたと推認されるところ、現に本件犯行後間のない昭和四二年六月一日から施行の改正関税法((昭和四二年法律第一一号による))のもとにおいては、本件貨物と同種の貨物についてはすでに没収および追徴の規定が適用されなくなつているのである。他方右関税法規の直接の保護法益である国家の課税権を侵害し国庫に与えた損害の点については、……逋脱税率が必ずしも高くないうえに、逋脱税額そのものも多額とはいいがたく、また国家の間接消費税である点において、関税と同類の物品税、酒税、砂糖消費税等にかかるいずれの税法においても、その逋脱事犯に対し、その逋脱行為組成物件を右関税法におけるように没収ないし追徴する旨の規定をおいていないことを考え併せると、右国家の課税権の侵害の点に着目して、本件における前判示の追徴を実質的に正当化することは困難である。さらにまた被告人らに対する懲罰の必要性の点をみるに、本件各事犯については、所定の懲役刑および罰金刑の範囲内で処断して不足するような事情は認められず、他方右追徴を科して、右懲役刑ないし罰金刑を最低限度に抑制したとしても、なお、被告人らの本件各事犯に対する刑事制裁としては、被告会社の一従業員として本件に加担した被告人朴福根、同朴正浩に対しては、もとより被告会社に対しても著しく過重となるものと判断される」旨詳細な理由を列挙し、「本件事案において、被告人三名に対する前記の追徴は、その実質的根拠と必要性の殆んで全てを欠くものと断ぜざるをえず、結局被告人らに対し徒らに甚大、過酷な制裁を科する結果となるものである以上、明文による直接の規定がないとはいえ、残虐な刑罰を禁じている憲法三六条の規定の精神と法の基底とする正義と衡平の理念に照らし、かかる結果は到底容認されがたいものというべく、したがつて当裁判所としては、右関税法の追徴の規定を適用して、被告人らに前記追徴の裁判をすることができない」との判断を示し、被告人らに対しその追徴の言渡をしなかつたことは、いずれも記録上明白である。

なるほど、改正前の関税法一一八条一項および二項所定の没収・追徴に関する規定は必要的なもので裁量の余地がなく、その没収の対象物件も犯罪貨物のみならずその供用物件である船舶・航空機などの広範囲にわたり、その価額が極めて多額な物および犯人以外の者の所有に属する物もこれに包含され、これら犯罪貨物などを没収できない場合にすべての犯人から所定の金額を追徴する旨規定するなど一般予防の見地にたつた威嚇的、懲罰的な性格を持つ厳しい内容のものであることはこれを否定しがたいけれども、右のような必要的没収・追徴の規定は、わが国の産業・経済に重大な影響を有する貨物の輸出入につき、国の保護ないし管理規制を強化し適正な経済秩序を保持するため関税法規に違反した者を厳に取締るうえで必要不可決なものとして設けられたものと解され、(昭和三三年三月一三日最高裁判所第一小法廷判決・集一二巻三号五二七頁、同三五年二月一八日同裁判所第一小法廷判決・集一四巻二号一五三頁参照)、さらに改正前の関税法一一八条の規定が憲法三六条、二九条および三一条に違反しない合憲有効なものであることは、すでに最高裁判所の判例(憲法三六条につき、昭和三五年二月一八日第一小法廷判決・集一四巻二号一五三頁、憲法二九条につき同三二年一一月二七日大法廷判決・集一一巻一二号三、一三二頁、憲法二九条、三一条につき同四五年一〇月二一日大法廷判決・集二四巻一一号一四八〇頁各参照)の示すところである。

右のように改正前の関税法一一八条二項の必要的追徴の規定が合憲有効なものである以上、具体的事案が右条項に該当する限り、当然に同規定を適用すべきものであり、右追徴の要否について裁量の余地がないことは前記規定の趣旨・内容自体に徴し明白であり、原判決が列挙するような追徴の必要性および実質的根拠の有無・程度やこれに基づき導き出されたものと解される「超法規的刑罰阻却事由」なるものは前記条項の適用を排除する合理的根拠となり得るとは解しがたい。すなわち、原判決のいう「超法規的刑罰阻却事由」の理論はこれにより法の明文がなくても前記必要的追徴の規定の適用を排除できるというのであり、具体的事案により裁判所に実質上の裁量権があると認めた点で立法を超える権限を是認することに帰着するから、三権分立の立前からも到底許容されないものといわねばならない。また、原判決の指摘する「正義と衡平の理念からみて裁判所の容認できないもの」という概念自体、前記「超法規的刑罰阻却事由」なるものの存否を決定する基準としては極めて漠然とした抽象的・不明確なものであつて、これにより違反行為の回数・態様、逋脱金額および追徴額など具体的事案が異なるに従い区々の結論が導き出され、却つて衡平性および法的安定性を著しく阻害する結果となりかねないから、右のような「刑罰阻却事由」なるものをもつて必要的追徴の規定を排除する法的根拠とはなし得ないものといわねばならない。もつとも、原判決がその判示するような理論を展開して被告人らに対して追徴を科さなかつたのは本件事案に限り具体的妥当性の見地から前記一一八条二項の適用により高額な追徴金(逋脱税額に対する追徴額の割合は、原判示のように、別表(一)については最高約五二七倍、最低約一一六倍、別表(二)については最高約二二九倍、最低約一四二倍に達する)を科し被告人らにとつて苛酷な結果を招来しないように配慮したためであることが窺えるけれども、これらの問題点は、法改正による是正や追徴の刑の執行面において周到かつ慎重に配慮されるほかはなく、原判決の指摘するような諸事情および憲法三六条の精神と正義・衡平の理念を考慮に容れても、前記必要的追徴の規定の適用を排除できないものと解するほかはない。

従つて、本件にあつては、被告人朴福根が別表(一)記載のような各輸入貨物につき、被告人朴正浩が別表(二)記載のような各輸入貨物につきそれぞれ被告会社の業務について改正前の関税法一一〇条の罪を犯しかつその犯罪に係る貨物である各表「品名」「数量」欄掲記の物件がすべて処分されたためこれを没収できない場合に該当し、右一一八条二項の要件を具備するものである以上、これが必要的追徴の措置は止むを得ないものと認められるから、被告人らに対し検察官所論の前掲各金額につき追徴の言渡をしなかつた原判決には改正前の関税法一一八条二項の解釈・適用を誤つた違法があつて判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い次のとおり自判する。

(罪となるべき事実)

被告会社は、後掲各犯行当時、東京都千代田区内幸町二丁目三番地に本店事務所を、大阪市東区平野町三丁目一五番地に大阪支店事務所をそれぞれ置いて貿易業務を営んでいたもの、被告人朴福根は被告会社本店の従業員として、同朴正浩は、被告会社大阪支店の従業員として各輸入業務を担当していた者であるが、鉛インゴツトおよびその含有量が全重量の九七パーセントを超える亜鉛インゴツトについては、課税価格が上昇するに従い関税率が低下することになつていたところから、右貨物についての課税価格を過大に申告することにより、差額関税を免れようと企て、

第一、被告人朴福根は、いずれも被告会社の業務について北朝鮮から鉛インゴツト三五〇ロングトン、含有量が全重量の九七パーセントを超える亜鉛インゴツト四五〇ロングトンを別紙修正別表(一)記載番号1ないし5のIおよびII欄掲記のように輸入するにあたり、その輸入港に到着するまでに要する通常運賃の単価が、輸入港が大阪港のときは一メトリツクトン当り八・八〇ドル、それが川崎港までのときはいずれも一メトリツクトン当り九・八〇ドルをいずれも超えるものでないのに、右貨物を運搬した拓洋船舶株式会社の係員をして、その都度、運賃は、輸入港が大阪港までのときはいずれも一ロングトン当り一三ドル、同川崎港までのときはいずれも一ロングトン当り一五ドルの各運賃請求書を作成させ、昭和四一年二月一四日ころから同年同月一八日ころまでの間、前後五回にわたり、情を知らない税関貨物取扱人の協立海運株式会社ほか二社の係員を通じて、横浜税関川崎税関支署または大阪税関桜島出張所の係官に対し、右各貨物の輸入申告をするに際し、右内容虚偽の各運賃請求書を、他の通関関係書類とともに提出し、その課税価格が同表のIII の課税価格欄掲記のとおり合計八四、八七二、〇三三円であるのに、これが同表のIIの「CIF価格」欄掲記のとおり合計八六、二五〇、九一二円である旨過大に申告し、その旨誤信した同所係官から、同年同月一六日から同月一九日までの間前後五回にわたり、それぞれ輸入許可を受け、もつていずれも詐偽の行為により同表V「逋脱関税額」欄記載の各差額関税(合計六一六、〇六〇円)を免れ、

第二、被告人朴正浩は、いずれも被告会社の業務について、北朝鮮から、鉛インゴツト三一三・九六七ロングトン、その含有量が全重量の九七パーセントを超える亜鉛インゴツト三〇〇ロングトンを別紙修正別表(二)記載番号1ないし6のIおよびII欄掲記のように輸入するにあたり、その輸入港である大阪港に到着するまでに要する通常運賃の単価が一メトリツクトン当り八・八〇ドルを超えるものでないのに、右貨物を運搬した正和海運株式会社大阪駐在員をして、その都度、運賃は一ロングトン当り一三ドルとする各運賃請求書を作成させ、同年二月二五日から同年三月二九日までの間、前後六回にわたり、情を知らない税関貨物取扱人の尼崎港運株式会社大阪支店ほか一社の係員を通じて大阪税関または同税関桜島出張所の係官に対し、右貨物の輸入申告をするに際し、右内容虚偽の各運賃請求書を、他の通関関係書類とともに提出し、その課税価格が同表III の課税価格欄掲記のとおり合計六五、〇五一、三二五円であるのに、これが同表IIの「CIF価格」欄掲記のとおり合計六五、九五九、三四五円である旨過大に申告し、その旨誤信した同所係官から、同年同月三日から同年四月一日までの間、前後六回にわたりそれぞれ輸入許可を受け、もつていずれも詐偽の行為により同表V「逋脱関税額」欄記載の各差額関税(合計四五三、九五〇円)を免れたものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

原判示各法条(但し追徴に関する説示部分を除く)のほか、前記改正前の関税法一一八条二項(本件各罪にかかる犯罪貨物は、現在においてもその所在が不明であり、従つていずれもこれを没収できない場合に該当するから、検察官控訴趣意について説示したように右貨物の犯罪が行われたときの価格に相当する金額((修正別表(一)および(二)のVI「追徴鑑定額」欄の各合計金額))を主文四項掲記のとおり追徴する)をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田修 裁判官 大西一夫 裁判官 龍岡資晃)

表I~VI<省略>

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